心に焼きついた言葉

略歴
昭和30年 富山高等学校 普通科卒業
 〃   劇団文芸座入団
昭和62年 富山県教育委員会優良芸術文化活動推進者表彰
平成 8年 富山県芸術祭功労者表彰
平成元年 ハンガリー・デブレッツェン市
チョコナイ(文化功労)賞
平成 6年 富山新聞芸能賞
 〃   富山県功労表彰
現在

劇団文芸座 理事
とやまこども芸術活動支援協議会 副会長

「映画がタダで見ることが出来る!」という誘いに惹かれ、映画演劇部に入った私は、演劇では先輩たちの演技に見惚れるだけの部活だった。 しかし今、顧みて伝統ある太郎丸演劇に籍を置いたことが、その後の私の人生を決めることになった。

富山高校卒業後、地元の劇団文芸座に入団。同じ太郎丸演劇出身の夫とともに、時には息子や孫まで巻き込んだ家族ぐるみの演劇活動は、富山から全世界にどんどん広がっていった。 富山流にいうならば、“みゃーらくもん”と映るだろう。だが「よき劇団員は、よき組織人、よき社会人たれ。」という劇団文芸座の鉄則はしっかり守られた。 仕事を遣り繰りしながら、よく国際演劇祭に出掛けたことで、世界各地に演劇を愛し、平和を愛する多くの友だちが出来た。なかでも私が最も敬愛した人が、アメリカのモート・クラーク教授であった。

「政治と宗教は人を分けるが、芸術は人を集める。」1983年秋、置県百年記念の富山国際アマチュア演劇祭の開催直前に、アメリカ発の大韓航空機が、サハリン沖合上空でソ連戦闘機に撃墜され、一触即発の戦争危機にさらされた。上記の言葉は緊迫した状況下の記者会見でのモートさんの発言である。 演劇祭事務局長だった夫とともに、そのとき県民会館3階会議室の記者会見に出席していた私は、この言葉を聞いた時の感動を終生忘れないだろう。

モートさんは、ウエストチェスター・コミュニティ・カレッジ(ニューヨーク州)演劇科主任教授で、即興劇のエキスパートであり、オーソリティでもあった。 世界各地の演劇祭に、モートさんは必ず招かれ、そのユーモアとウイットに富む即興劇のワークショップは人気があった。いつも参加者で会場が一杯になり、笑いで盛り上がっていた。 例えば、不登校の生徒役を学校の教師にやらせ、先生役を生徒が演じたり、子供と親を入れ替えたり、動物を登場させたり…。これらを即興的に演じさせるのである。 即興劇は日本では馴染みが薄いが、欧米の演劇教育では必修であり、一般教育にも取り入れられるケースもあると聞いた。楽しく笑いながら、想像力が涵養され、また創造力の陶冶に繋がるのである。私は楽しい学習のお手本を見る思いがした。

平和な国から参加した若者や子供たちが、モートさんの即興劇のワークショップで、満面に笑みを湛え、幸せそうに演ずる姿を見て、私は同じ地球に住みながら争いや貧困で教育を受けることの出来ない子供たちを、モートさんのワークショップに参加させてやりたい思いに駆られた。そして、いつも思うだけで終ってしまう冷酷な現実が虚しかった。

テロや民族間紛争によって目を覆う惨状が報道される度に、モートさんが富山で言った「政治と宗教は人を分けるが、芸術は人を集める。」の言葉を思い出す。
モートさんは、この素敵な言葉を私たちの心に焼きつけ一昨年この世を去った。

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