
略歴
1958年 富山高等学校卒業
1962年 早稲田大学第一理工学部卒業
1968年 Northeastern大学大学院(博士課程)修了
1969年 California State University,
Northridge校着任
Assistant Professor (助教)
1972年 Associate Professor(准教授)
1976年 Professor(教授)
現 在 京都市と米国ハワイ州コナに在住
富山高校、早稲田大学を卒業したあと、アメリカに渡ってからもう半世紀になる。その間、大学院修了後ロスアンゼルス郊外の大学で40年余り物理の教育と研究をやり、数年前70歳で自由の身となった。しかし、物理しかやったことのない無趣味の身には、第二の人生と言っても気のきいたことが見つけられるわけがない。隠居の慰めとすることと覚悟した。
研究は原子核理論物理をやってきた。原発・原爆の物理ではく、「どのように原子核が造られていて、それはどうしてなの?」といった問題を相手にする学問である。
この分野は一世紀少し前にはじまって、今は細かな話が多く隠居の慰めとしては面白くない。
で、どうせやるならやったことのないスケールの大きな話、宇宙論をやることにした。
アメリカでは引退年齢がない。人種・性別・年齢は完全無視、とする法律が制定されている。
その上、私が働いた州立大学は、仕事はきついが、引退後大学で5年間パートとして続けることを許可してくれる。
私は65歳での引退をきめ、パートの5年間に隠居のための準備をした。隠居の慰めといっても、物理である限り、特定の問題を考え計算をして観測データと比較することになる。
いま私のやっているのは、以下に出てくる軽原子核合成と宇宙背景放射の情報との例外的な不一致を問題にした、依然として原子核がかかわった問題である。が、ここでは技術的なこの問題ではく、宇宙論に付随した話をしてみたい。
現代の宇宙論である「ビッグバン宇宙論」によれば、宇宙は140億年ほど前に爆発的に始まり、その後、膨張し続けてきた。この理論は、宇宙の膨張の観測と、宇宙に一様なマイクロ波の背景放射の観測、更には軽原子核合成理論が予言する存在比の観測によって確証された。
年代順に言えば、宇宙は140億年ほど前に始まり、軽原子核合成はその数分後に起き、背景放射は38万年後に発生し、現在もなお膨張を続けている。これが、ここ半世紀に人類が得た宇宙創成の知的遺産である。どいが、観測によって確証された知識である。
しかし、宇宙の始まりそのものは現在の物理では解明不可能である。始まりに近い宇宙は想像を絶する高密度と高温度(高エネルギー密度)の状態で現在の素粒子物理では不確かな世界である。宇宙論の基礎となっている一般相対性理論によれば、その世界では非常に強い重力による極端な時間・空間のゆがみが起きている。 解明不可能といったが、いろいろな理論、推論はあるが、実証がない。始まりの後の10の10乗分の1秒以降くらい、温度が10の15乗度以下くらいの宇宙の組成はヒッグス粒子が支配する(実証されている)素粒子理論で記述されると考えられており、保守的かもしれないが、多分このあたりから確かな宇宙が始まったとしてよいと思う。
人は、始まりの詳細がわからなくても「その始まりの前は?」と考える。
「宇宙の始まりの前はなんだったのだろうか?」と尋ねる。しかし、これはむしろ「始まりの前そのものはあったのだろうか」が、適切かもしれない。 つまりは、上述の極端な時間・空間のゆがみを超えた「その前」が存在したのか、ということであり、「時間とは何か」という問題に帰着する。「時間」の問題は超難しい。まじめな話、例えば、「どうして時間は一方方向にしか流れないのか」は物理学で未解決の大問題である。
話を主流に戻そう。英才スティーヴン・ホーキングによれば、この「始まりの前」の質問は、「北へ北へと向かって行くと北極に到達する。しかし、北極のさらなる北はどこだろう」と同じという。この答が正しいのかもしれない。もしこれが答えになっているとすれば、である。
別の宇宙論にも同じような話がある。「神は天と地を7日でおつくりになったが、神はその前は何をなさっていらっしゃったのだろう」という問いである。これには「神はそうした質問をする者のための地獄を準備されていた」という気軽な答えがある。しかし、4世紀の偉大な聖アウグスティヌスは『告白』のなかで、「神は(万物を)時間そのものもおつくりになったのだ」と答えたと云う。いずれの答えも釈然としない。これは凡人の常なのだろうか。